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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁
ガチャッと、何か金属性な音がしたので、世阿弥は突然言葉を切った。
すでに最前、合歓の木の下で、鋭い鏃にかすめられた時から、自分へも、俵一八郎と同じ運命が訪れてきたなと直覚して、覚悟はきめているかれだったが、話し半ばに、剣の音を聞くと、やはりぎょっとして舌が吊りあがった。
見ると――世阿弥の眼で見ると――お十夜は大刀をつかんでいる手をにわかに、バッタリと前へついたのであった。その鍔の音だった。
で、言葉を次ごうとすると、先に、岩穴を出た一角が、
「お十夜、何をいたしているのだ!」ととば口から奥へ言った。井戸へどなったように、その声が、おそろしく大きく響く。
孫兵衛はハッとして、大刀を持ちなおした。
しかし、声に応じて世阿弥をすぐに突き殺す気は出なかった。
今の話は、多分な好奇心もあり、後に、阿波守の耳へ伝えていい重要なこともあるが、何より、彼をたじろがせたのは、自分の母親のことを、世阿弥が話しかけているせいだ。
あらゆる放埒、物盗り、辻斬りまでやって、なお恬然たる悪行の甘さを夢みるお十夜だが、母を思う時、かれはもろい人間だった。不思議なくらい、その常識の一ツだけは、誰にも負けない善人孫兵衛であった。