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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁

青空文庫

中二階

――どうだエ、宅助、それでもこのお米様を、阿波まで連れて帰れるかい」

「…………」蝦のようにかがまった宅助の影は、ただ激しい痙攣を起こしていた。

「おや、返辞もできなくなってしまったね。もう少し、話し残りがあったものを。じゃ、いろいろお世話をかけたけれど、宅助や、あばよ――」

中二階

牡丹刷毛をもって、しきりと顔をはいていたいろは茶屋のお品は、塗りあげた肌を入れて鏡台を片よせると、そこの出窓をあけて表も見ずに、手斧削りの細格子の間から鬢盥の水をサッと撒いた。

と一緒に、窓の外にたたずんで、立ち話をしていた二人の侍が、

「あ、ひどい!」

両方に飛び別れて、後ろの櫺子をふりかえった。

「かかりましたか、水が」

「見ろ、これを」

「すみませんでした……」と真っ白に塗った襟をのばして、油よごれの水がちっとばかりはねた侍の藁草履を眼にした。

「……どうも、つい」

「たわけめ、気をつけい!」

と、総髪の若いほうが睨みつけたが、ここは野暮を嫌う色町でもあり、かたがた軒を並べているいろは茶屋の暖簾口には、脂粉の女の目がちらほら見えるので、

「天堂」

と、一方へ顎をしゃくるなり、連れの編笠をうながして、浜納屋囲いの軒並を離れてしまった。