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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁

青空文庫

そして、

「どうでございますか」と、甘えるように、櫛を拭く。

「よかろう。いや、ご苦労であった」

「お気に召さないかもしれませんが」

櫛にからんでいた男の毛を、指の先に巻きながら――

「けれど、たぶさに結んだ髪も、ほんに、よくお似合いなさいますこと」

流し眼に、ジイと、燃ゆる思慕を。

離れがたなく、居なりのまま、精いッぱい、心の一端でも、洩らしてみようとするのだが、眼元ばかり熱くなって、咽喉はいたずらに渇いてくる。

「ああ……」と、思わず、火のような吐息。

そして、がっくりと片手を落した途端に、お綱のフッサリした黒髪が、投げるように、男の膝へかぶさった。

弦之丞は、はっと驚いた面持をして、その背中へ、手を迷わせた。

と急に、嵐のように。

「法月さん! ……」

こらえぬいていた涙の堰を切ってお綱は、強く身をふるわせた。

「か、かんにんして下さい……、私は、泣きたくなりました。泣かして……泣かして」

きょうまで、無理にいましめていた理性と羞恥を破って、片恋の涙は、いちどに、男の膝を熱く濡らして、今はもう止め途もない。

雨に叩かれた花かとばかり泣きくずれた女の体が、弦之丞には、どうにもならぬような重さだった。