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おうがいのおもいで

鴎外の思い出

小金井 喜美子

線上閱讀小金井 喜美子《鴎外の思い出(おうがいのおもいで)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 127,675 字 · 254 頁

青空文庫

と、もつれる舌でいう人があります。賑やかに三味線が鳴り初めて、雛妓が立上りました。赤い友禅の袖の長いのを著ていましたが、誰かの黒っぽい羽織を上に引張って手拭で頬被をし、遊び人とでもいうつもりでしょう、拳固を懐から覗かせて歩くのです。

雨はしょぼしょぼ、もみじ番所をすたすた通れば、「八、きのうの女にもてたか」「大もてよ」。わるい道ではないかいな。

ただこれだけの歌ですが、わるい道という所から、裾を高々とって、白い足に続いた白い腹まで出して、ゆるゆると歩き廻るのです。少し鈍い子のようで、恥しそうな顔もしませんのは、たびたび踊らせられるのでしょう。酔った人たちは手を叩いて囃すのでした。いくら土地柄とはいえ、なぜこんな踊をさせるのだろう。お兄様もどこかで見て御存じなのかしら、それともこんなお客たちが喜ぶだろうと思って仰しゃったのかしら。私はとつおいつ考えていました。

「おい、小六さんは踊らないのかい」と肩を叩く人があっても、小六は見向きもしませんかった。

お医者の中に、この土地で唯一人の医学士がありました。敏捷そうな三十余りの人です。後になって、その人が小六を妻にしました。