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さぶ

さぶ

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《さぶ》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 頁

青空文庫

栄二は口へ手を当てた。和助は自分が一滴も飲まないばかりでなく、酒そのものを病的に嫌っている。いまは暮の十五日、もうひるに近いころだが、酒の匂いに気づかれたら、相談どころか叱りとばされるのがおちだろう、そう気づいたので、栄二は赤くなった。

「そうだな、つい忘れていた」と云って彼はそっと手を振った、「ちょっと話があって来たんだが、そんなに匂うとすると」

「ええ」と半次はおとなびたようすで首を振った、「いけませんね」

「出直して来よう」と栄二が云った、「黙っててくれ」

そして外へ出ようとすると、向うの障子があいて、和助が爪楊枝を使いながら出て来、栄二を呼びとめた。栄二は敷居を跨いだ恰好のまま振り向き、会釈をして「またあとで来ます」と云った。

「まああがれよ」と和助が云った、「狭いうちだからしようがねえ、酒のことは聞いた」

栄二は頭を掻いた。

「今日は酒の小言はよしにする」と和助は続けた、「それより話してえことがあるんだ、まああがってくれ」

栄二があがると、和助は右の六帖へ案内した。そして隣りの部屋へ、茶を持って来いと呼びかけ、二人で差向いに坐った。そっちの部屋が茶の間で、妻女の答える声と、まだ誰か食事をしているのであろう、茶碗や箸の音が聞えて来た。