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それから

それから

夏目 漱石

線上閱讀夏目 漱石《それから》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 172,794 字 · 347 頁

青空文庫

二個の相容れざる願望嗜欲が胸に闘う場合も同じ事であった。ただ矛盾から出る一目的の消耗と解釈していた。これを煎じ詰めると、彼は普通に所謂無目的な行為を目的として活動していたのである。そうして、他を偽らざる点に於てそれを尤も道徳的なものと心得ていた。

この主義を出来るだけ遂行する彼は、その遂行の途中で、われ知らず、自分のとうに棄却した問題に襲われて、自分は今何の為に、こんな事をしているかと考え出す事がある。彼が番町を散歩しながら、何故散歩しつつあるかと疑ったのは正にこれである。

その時彼は自分ながら、自分の活力に充実していない事に気がつく。餓えたる行動は、一気に遂行する勇気と、興味に乏しいから、自らその行動の意義を中途で疑う様になる。彼はこれをアンニュイと名けていた。アンニュイに罹ると、彼は論理の迷乱を引き起すものと信じていた。彼の行為の中途に於て、何の為と云う、冠履顛倒の疑を起させるのは、アンニュイに外ならなかったからである。

彼は立て切った室の中で、一二度頭を抑えて振り動かしてみた。彼は昔から今日までの思索家の、屡繰り返した無意義な疑義を、又脳裏に拈定するに堪えなかった。