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それから

それから

夏目 漱石

線上閱讀夏目 漱石《それから》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 172,794 字 · 347 頁

青空文庫

一頁も眼を通さないで、日を送ることがあると、習慣上何となく荒廃の感を催おした。だから大抵な事故があっても、なるべく都合して、活字に親しんだ。ある時は読書そのものが、唯一なる自己の本領の様な気がした。

代助は今茫然として、烟草を燻らしながら、読み掛けた頁を二三枚あとへ繰ってみた。そこにどんな議論があって、それがどう続くのか、頭を拵える為に一寸骨を折った。その努力は艀から桟橋へ移る程楽ではなかった。食い違った断面の甲に迷付いているものが、急に乙に移るべく余儀なくされた様であった。代助はそれでも辛抱して、約二時間程眼を頁の上に曝していた。が仕舞にとうとう堪え切れなくなった。彼の読んでいるものは、活字の集合として、ある意味を以て、彼の頭に映ずるには違ないが、彼の肉や血に廻る気色は一向見えなかった。彼は氷嚢を隔てて、氷に食い付いた時の様に物足らなく思った。

彼は書物を伏せた。そうして、こんな時に書物を読むのは無理だと考えた。同時にもう安息する事も出来なくなったと考えた。彼の苦痛は何時ものアンニュイではなかった。何も為るのが慵いと云うのとは違って、何か為なくてはいられない頭の状態であった。