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それから

それから

夏目 漱石

線上閱讀夏目 漱石《それから》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 172,794 字 · 347 頁

青空文庫

「すこし又話したい事があるから来て下さい」と前よりは稍真面目に云って代助は三千代と別れた。

中二日置いて三千代が来るまで、代助の頭は何等の新しい路を開拓し得なかった。彼の頭の中には職業の二字が大きな楷書で焼き付けられていた。それを押し退けると、物質的供給の杜絶がしきりに踴り狂った。それが影を隠すと、三千代の未来が凄じく荒れた。彼の頭には不安の旋風が吹き込んだ。三つのものが巴の如く瞬時の休みなく回転した。その結果として、彼の周囲が悉く回転しだした。彼は船に乗った人と一般であった。回転する頭と、回転する世界の中に、依然として落ち付いていた。

青山の宅からは何の消息もなかった。代助は固よりそれを予期していなかった。彼は力めて門野を相手にして他愛ない雑談に耽った。門野はこの暑さに自分の身体を持ち扱っている位、用のない男であったから、頗る得意に代助の思う通り口を動かした。それでも話し草臥れると、

「先生、将棋はどうです」などと持ち掛けた。夕方には庭に水を打った。二人共跣足になって、手桶を一杯ずつ持って、無分別に其所等を濡らして歩いた。門野が隣の梧桐の天辺まで水にして御目にかけると云って、手桶の底を振り上げる拍子に、滑って尻持を突いた。