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『てっぽうさへいじ』ついでにもひとつ

たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集【底本画像有】

佐藤 春夫

線上閱讀佐藤 春夫《たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集【底本画像有】(『てっぽうさへいじ』ついでにもひとつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 23,182 字 · 48 頁

青空文庫

「あきまへんか」

といったきり悄気てしまう。彼は神戸の生れであったが、こんな場合の上方弁はこの上なく脱俗したものに聞えました。

「おい、ゴオルドスミス君」

私がそんなことをいって呼びかけると、彼は慨然として答えました。

「今まで、そんなことをいわれたことはないのやがな――馬鹿だなんて。みんな驚いてまんが、どうや、あの科学と哲学を見! といって」

そこでまたしてもわたしは「あの科学と哲学とを見」という言葉を覚え、その後は彼が議論を長々とやり出すと、それにピリオッドを打つつもりで、わたしはいつも「あの科学と哲学とを見」といってやるのでした。

彼はわたしには尻尾をつかまれているから仕方がないと、よくいいました。それは古はプラトオから近代ではアンデルゼン、オスカアワイルドに至る哲人や芸術家の如く、この男もソドミストだということを、わたしが偶然に発見したからでした。

初めてわたしのところへ尋ねて来た時でした。夏の夕方わたしは彼をつれて銀座へ散歩に出ようと郊外の停車場へ出たのです。停車場はどうしたわけか、いつになく混雑していて、改札口で人が押合いました。わたしは自分の肩へそっと手を置いたものがあったので誰か知らない女でもわたしの後から押れているような気がして振りむいてみると、そこにはやはり彼がわたしに従って来ているだけ