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めくらぞうし

めくら草紙

太宰 治

線上閱讀太宰 治《めくら草紙(めくらぞうし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 6,695 字 · 14 頁

青空文庫

むかし、江戸番町にお皿の数をかぞえるお菊という幽霊があった。なんどかぞえてもかぞえても、お皿の数が一枚だけ、たった一枚だけ、たりないのである。私には、その幽霊のくやしさが、身にしみてわかった。

こんどは、寝ながら、私ひとりで筆をとって書いてみた。

いま、私の寝ている籐椅子のすぐちかくに坐って、かたわらの机に軽くよりかかり「非望」という文芸冊子を、あちこち覗き読みしているこのお隣りの娘について少しだけ書く。

私がこの土地に移り住んだのは昭和十年の七月一日である。八月の中ごろ、私はお隣りの庭の、三本の夾竹桃にふらふら心をひかれた。欲しいと思った。私は家人に言いつけて、どれでもいいから一本、ゆずって下さるよう、お隣りへたのみに行かせた。家人は着物を着かえながら、お金は失礼ゆえ、そのうち私が東京へ出て袋物かなにかのお品を、と言ったが、私は、お金のほうがいいのだ、と言って、二円、家人に手渡した。

家人がお隣りへ行って来ての話に、お隣りの御主人は名古屋のほうの私設鉄道の駅長で、月にいちど家へかえるだけである。そうして、あとは奥さまとことし十六になる娘さんとふたりきりで、夾竹桃のことは、かえって恐縮であって、どれでもお気に召したものを、とおっしゃった。