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アンドロギュノスのちすじ

アンドロギュノスの裔

渡辺 温

線上閱讀渡辺 温《アンドロギュノスの裔(アンドロギュノスのちすじ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,168 字 · 267 頁

青空文庫

そして折よく近くにい合せた小舟に救い上げてもらった……

Aが、宿屋の床の中で、はっきり吾に返った時、枕元について看護していたのは、Bの細君一人だけだった。

「僕は、どうして助かったのですか?」

「Bが助けました。」

「…………」

「Bは大へん心配していました。あなたに、人のいないところで泳ぎながら、あのお話をするつもりだったのですって。」

「うちの女房はどうしたでしょう?」

「奥さんは何も御存知ないの。あなた方が泳ぎはじめると、直ぐに『眩暈がする』と仰有って、宿に戻ったのですけれど、それっきり皆を置いてきぼりにして家へ帰ってしまったらしいの。帳場で聞いたら、ただあなたに『急に思い出したことがあるから――』と云うお言伝だったそうです。」

「Bは?」

「自分の部屋にいます。」

「呼んで来てくれませんか。」

Bの細君は、Bを呼びに立ったが、直き一人で、右手に黒いガラスの小壜を持って引返して来た。

「Bも帰ってしまいました!――」と彼女は震え声で、やっとそれだけ云った。

「何とも断らないでですか?」

彼女は點頭いて、黒いガラス壜を差し出して見せた。小いさな髑髏の印のついたレッテルに、赤いインキで(空虚の充実。