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ドナウげんりゅうこう
ドナウ源流行
斎藤 茂吉
線上閱讀斎藤 茂吉《ドナウ源流行(ドナウげんりゅうこう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 21,565 字 · 44 頁
人家は全く絶えて、すでに森が迫って来ている。その両方に迫って来ている森の間を、まばゆい春の日光に照らされた川は、極くゆるく迂って流れているのである。
僕は川に接近することを努めながら奥の方へ歩いて行った。ある時はすぐ川の汀を歩いていた。湿地で靴がぬかり、そこから泡が幾つも音をさせて上って来るところなどを歩いた。汀の草は冬がれて未だ芽ぶいていない。
流とそんなに近く歩いているから、直ぐ口を付けて水を飲むことも出来る。然るに水は流れているように見えず、ただいっこくに湛えているように見える。その銀色の水に直さま顔を接することが出来るが、水はまだ深淵であって、水に顔を寄せ瞳をすえて水中を覗くに、汀の土が漸く水中に没し、深いところの土には水草が泥をかむって生えている。その奥は暗くなってもう見えない。しかし水の泡がゆるく水面を流れているから水は死んでないのである。
銀色の光る水を湛えて、川は遙か向うの森かげに曲ってしまう。僕の近くの川は訣なく跨ぐことの出来るようにおもうのは、水面と僕と距離の親しさがあるためであった。けれども川はやはり水の量豊かで、底にこもる不可犯のこの厳しさはおのずから大河の源流を暗指していたから、僕は心中に或る満足をおぼえたのである。