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ノンシャランどうちゅうき
ノンシャラン道中記
久生 十蘭
線上閱讀久生 十蘭《ノンシャラン道中記(ノンシャランどうちゅうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 12,165 字 · 24 頁
一九二九年の夏、大西洋に面した西仏蘭西の沿岸にある離れ小島に、二人の東洋人がやって来た。質朴な島の住人が、フランス語で挨拶して見たら、相応な挨拶をフランス語で返すので、これは多分フランス人なんだろうと決め込んで、以来、多少の皮膚の色の曖昧さや、少し黒すぎる髪の毛の色には頓着しないふうであった。
さて、この二人の東洋人が、この夏を過すことに決めた島というのは、大西洋の中に置き忘れられた絶海の一孤島であって、そこには、風車小屋と、羊と、台ランプと、這い薔薇と、伊勢海老と、油漬鰯の工場と、発火信号の大砲と、「海の聖母像」と、灯台と、難破した FORTUNE 号の残骸と、――そのほか、風とか、入江とか、暗礁とか、それ相応のものの外、計らざりき、災難というものさえあったという次第。
そもそも、災難の濫觴とも、起源ともいうべきその宿とは、先年、鰯をとるといって沖へ出たまま、一向報りをよこさぬという七歳を頭に八人の子供を持つ、呑気な漁師の妻君の家の二階の一室で、寄席の口上役のような、うっとりするほど派手な着物を着たこの家の若後家が、敷布と水瓶を持って、二人の前に罷り出た時の仁義によれば、この部屋は、かつて翰林院学士エピナック某が、この島、すなわち「ベリイルランメール島の沿革および口碑。