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ぼくのぼうしのおはなし
一房の葡萄 他四篇
有島 武郎
線上閱讀有島 武郎《一房の葡萄 他四篇(ぼくのぼうしのおはなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 18,712 字 · 39 頁
おとうさんもおかあさんも、何にも知らないように、僕のそばでよく寝ていらっしゃいます。僕はおかあさんを起そうかとちょっと思いましたが、おかあさんが「お前さんお寝ぼけね、ここにちゃあんとあるじゃありませんか」といいながら、わけなく見付けだしでもなさると、少し耻しいと思って、起すのをやめて、かいまきの袖をまくり上げたり、枕の近所を探して見たりしたけれども、やっぱりありません。よく探して見たら直ぐ出て来るだろうと初めの中は思って、それほど心配はしなかったけれども、いくらそこいらを探しても、どうしても出て来ようとはしないので、だんだん心配になって来て、しまいには喉が干からびるほど心配になってしまいました。寝床の裾の方もまくって見ました。もしや手に持ったままで帽子のありかを探しているのではないかと思って、両手を眼の前につき出して、手の平と手の甲と、指の間とをよく調べても見ました。ありません。僕は胸がどきどきして来ました。
昨日買っていただいた読本の字引きが一番大切で、その次ぎに大切なのは帽子なんだから、僕は悲しくなり出しました。涙が眼に一杯たまって来ました。