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ちゅうせいのぶんがくでんとう

中世の文学伝統

風巻 景次郎

線上閱讀風巻 景次郎《中世の文学伝統(ちゅうせいのぶんがくでんとう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 115,977 字 · 230 頁

青空文庫

人は遠く現代から吉野時代を望見して、大観的に吉野方を悲惨と規定する故に、吉野朝廷の歌に異常な生活の変質と生気の汪溢を感じたくなるのである。もしそうだとすれば、それはいわば歴史理解の充分しみ透っていないことから生れた、思わぬ誤算であるとともに、そうした異常らしい場所では、異常な人間気力の爆発を味いたいと思う心そのものが、すでに一種無責任な芝居見物気分を混じていないとはいえぬことを自戒すべきである。吉野の廷臣に、何故お前方はもっとつよい歌を歌わぬかと責めるのは、何故万葉人なみの野人にかえらぬのかと責めるに等しい、そのような不満をもらす前に、私ども自らは手に負えぬこざかしい文化人であることを反省した方がよいのではないか。すると歴史の透視ということは、がらりとして一変するであろう。実朝があのような歌を詠んだのは、稀有の立場にあったためで、彼の天分のみを以てすれば、あの万葉調の擬古作品をなしたに過ぎまいということは、私の述べたところですでに感じられたことであろう。そして、吉野朝の人々には和歌という特殊な伝統に制約された形式によって、実朝のような抒情をなし得る根拠は与えられていなかったのである。