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ちゅうせいのぶんがくでんとう

中世の文学伝統

風巻 景次郎

線上閱讀風巻 景次郎《中世の文学伝統(ちゅうせいのぶんがくでんとう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 115,977 字 · 230 頁

青空文庫

にもあるように、『古今集』を全部そらんじた后もおられるようになってきた。

けれども何よりも増して、重要だったものは、ただ単に和漢文化の対立観念だけでなくて和歌を尊いものと感じさせた自国の文化伝統に対する自覚であり、誇りであった。日本には神代から和歌があって、それが神の御裔の帝の廷に、絶えることなく承け継がれて来たという、昔ゆかしい信念であった。『古今集』の序にも和歌は素戔嗚尊にはじまったと記している。これは『古事記』の、

八雲立つ出雲八重垣つまごみに八重垣つくるその八重垣を

という、尊のお歌をさすのであって、記録の上からいえば、これが一番古い歌であることはたしかである。しかし考えて見れば、このお歌よりも古くからもっと沢山歌があったことは当り前のことだし、このお歌が短歌の形になり切っているのも、ほかの神々のお歌のことなどから考えあわせ、また文字のない浮動性のはげしかった時代のことだから、後の伝承者が短歌の形にととのえてしまったと見るべきものと思われるのであって、このお歌一つに全和歌がはじまるという風に見るのは、今からいえば記録だけにたよりすぎて、真実からはなれすぎた素朴な歴史観に過ぎないし、第一和歌という観念はまだ影だに見えなかったときなのであるが、しかし平安時代はじめの人々の考え方としては尤もなことであった