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ごがつのゆいぶつかん
五月の唯物観
寺田 寅彦
線上閱讀寺田 寅彦《五月の唯物観(ごがつのゆいぶつかん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 4,225 字 · 9 頁
西洋では五月に林檎やリラの花が咲き乱れて一年中でいちばん美しい自然の姿が見られる地方が多いようである。しかし日本も東京辺では四月末から五月初めへかけて色々な花が一と通り咲いてしまって次の季節の花のシーズンに移るまでの間にちょっとした中休みの期間があるような気がする。少なくも自分の家の植物界ではそういうことになっているようである。
四月も末近く、紫木蓮の花弁の居住いが何となくだらしがなくなると同時にはじめ目立たなかった青葉の方が次第に威勢がよくなって来るとその隣の赤椿の朝々の落花の数が多くなり、蘇枋の花房の枝の先に若葉がちょぼちょぼと散点して見え出す。すると霧島つつじが二、三日の間に爆発的に咲き揃う。少しおくれて、それまでは藤棚から干からびた何かの小動物の尻尾のように垂れていた花房が急に伸び開き簇生した莟が破れてあでやかな紫の雲を棚引かせる。そういう時によく武蔵野名物のから風が吹くことがあってせっかく咲きかけた藤の花を吹きちぎり、ついでに柔らかい銀杏の若葉を吹きむしることがあるが、不連続線の狂風が雨を呼んで干からびたむせっぽい風が収まると共に、穏やかにしめやかな雨がおとずれて来ると花も若葉も急に蘇生したように光彩を増して、人間の頭の中までも一時に洗われたように清々しくなる。