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きょうにつけるゆうべ

京に着ける夕

夏目 漱石

線上閱讀夏目 漱石《京に着ける夕(きょうにつけるゆうべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 4,009 字 · 8 頁

青空文庫

やっぱり気取っているんだと冷笑するかも知れぬ。子規は冷笑が好きな男であった。

若い坊さんが「御湯に御這入り」と云う。主人と居士は余が顫えているのを見兼て「公、まず這入れ」と云う。加茂の水の透き徹るなかに全身を浸けたときは歯の根が合わぬくらいであった。湯に入って顫えたものは古往今来たくさんあるまいと思う。湯から出たら「公まず眠れ」と云う。若い坊さんが厚い蒲団を十二畳の部屋に担ぎ込む。「郡内か」と聞いたら「太織だ」と答えた。「公のために新調したのだ」と説明がある上は安心して、わがものと心得て、差支なしと考えた故、御免を蒙って寝る。

寝心地はすこぶる嬉しかったが、上に掛ける二枚も、下へ敷く二枚も、ことごとく蒲団なので肩のあたりへ糺の森の風がひやりひやりと吹いて来る。車に寒く、湯に寒く、果は蒲団にまで寒かったのは心得ぬ。京都では袖のある夜着はつくらぬものの由を主人から承って、京都はよくよく人を寒がらせる所だと思う。

真夜中頃に、枕頭の違棚に据えてある、四角の紫檀製の枠に嵌め込まれた十八世紀の置時計が、チーンと銀椀を象牙の箸で打つような音を立てて鳴った。夢のうちにこの響を聞いて、はっと眼を醒ましたら、時計はとくに鳴りやんだが、頭のなかはまだ鳴っている。