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きょうにつけるゆうべ

京に着ける夕

夏目 漱石

線上閱讀夏目 漱石《京に着ける夕(きょうにつけるゆうべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 4,009 字 · 8 頁

青空文庫

しかもその鳴りかたが、しだいに細く、しだいに遠く、しだいに濃かに、耳から、耳の奥へ、耳の奥から、脳のなかへ、脳のなかから、心の底へ浸み渡って、心の底から、心のつながるところで、しかも心の尾いて行く事のできぬ、遐かなる国へ抜け出して行くように思われた。この涼しき鈴の音が、わが肉体を貫いて、わが心を透して無限の幽境に赴くからは、身も魂も氷盤のごとく清く、雪甌のごとく冷かでなくてはならぬ。太織の夜具のなかなる余はいよいよ寒かった。

暁は高い欅の梢に鳴く烏で再度の夢を破られた。この烏はかあとは鳴かぬ。きゃけえ、くうと曲折して鳴く。単純なる烏ではない。への字烏、くの字烏である。加茂の明神がかく鳴かしめて、うき我れをいとど寒がらしめ玉うの神意かも知れぬ。

かくして太織の蒲団を離れたる余は、顫えつつ窓を開けば、依稀たる細雨は、濃かに糺の森を罩めて、糺の森はわが家を遶りて、わが家の寂然たる十二畳は、われを封じて、余は幾重ともなく寒いものに取り囲まれていた。

春寒の社頭に鶴を夢みけり