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こんにちのぶんがくのてんぼう

今日の文学の展望

宮本 百合子

線上閱讀宮本 百合子《今日の文学の展望(こんにちのぶんがくのてんぼう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 43,109 字 · 83 頁

青空文庫

この時期に、文化・文学の辿って来た歴史の伝統の刻み目の内容を着実に含味しようとせず、空に飛行機を舞わせつつ、文学精神の面においてだけは青丹よし寧楽の都数千年の過去にたちかえらんとしても、幻を喰って生きていられるだけの余裕に立ってそれを主唱している少数の人々以外には、深き困惑に陥るのである。

この常識から見れば奇妙な偏りをもった古典文学謳歌の傾向が、ともかく自身のために語り得る場処をもち得ているという可能の条件に就て、自明な情勢はもとよりのこととして、更に文化の面から考察が進められなければなるまいと思う。アカデミックな国文学者の著になる和泉式部の研究を土台として、一躍情熱の女詩人与謝野晶子への讚美となることの腑に落ちなさは一般文化人の胸にありつつ、何故輿論としてそれが発言されないのであろうか。文学に即して見れば、従来の国文学研究が実社会から離れたありようをしていたからであることが、指されると思う。

この年は佐佐木信綱博士の万葉集校訂の大事業が完成して注目をひいたが、従来、国文学者は不思議にも日本の国文学として今日の文学作品までがその研究の分野にとり入れられなければならないという、極めて当然な動きから、かたく身を退いて来た。