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へいけがに

伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集(へいけがに)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,094 字 · 411 頁

青空文庫

と記して贈ったので、女もさすがに心が折れて、君のもとへ参り仕えたという古い伝説がある。今度の事柄もその古い伝説にやや似通っているので、兼好は「なよ竹」の一句を書いた。賢い小坂部はその意を判じた。

世を捨てた才人と、世を忍ぶ才女との会見はこれで終って、小坂部はかさねて礼を述べて別れた。

「いずれ改めてお礼ながら、この歌の返しの有りや無しやもお知らせ申しにまいりまする。」

「いや、いや、それには及ばぬ。その返しがあればとて無ければとて、われらに取ってはなんの痛み痒みもないことじゃ。父の殿の御病気、せいぜい気をつけて御介抱なされい。」

来た時に引き換えて、帰る時には兼好もあるじ顔して竹縁の端まで見送って出ると、「なよ竹の」を懐中に秘めた若い女は、ゆう日をうしろにして都の方へたどって行って、蝶のような笠の影は尾花の末に遠く隠れてしまった。

「まだ日のあるうちで仕合わせじゃ。暮れてから芒原であのような美しい女子に出逢うたら、狐が化けたのじゃと思わるるかも知れぬ。」

兼好は独りで笑いながら机の前に戻ったが、やがて夜食の蕪雑炊でも焚く支度をするらしく、奥から土鍋と青い野菜とを持ち出して来て、庭の筧の細い水を汲み始めた。