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へいけがに

伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集(へいけがに)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,094 字 · 411 頁

青空文庫

半※(「日+向」、第3水準1-85-25)を過ぎないうちに、小坂部と侍従は奥から送られて出て来た。采女は人々に会釈して暗い門前へ出ると、木枯しはまだ吹きやまなかった。火のそばを離れたせいか、夜の寒さが俄かに身にしみて来た。

「御用は滞りなく相済みましたか。」と、采女は歩きながら小声で訊いた。

「奥方のおどろき、見るも痛わしいような。」と、小坂部は溜め息をついた。「なれど、これでわたしの役目は済んだ。」

「塩冶の方々はどうすることでござりましょう。」と、侍従は不安らしくうしろを見かえった。

「どうすると言うて、逃がれぬ破目じゃ。」と、小坂部は再び嘆息した。「夜のあけぬ間に都を落つる。それよりほかに仕様はあるまい。」

父の讒言がだんだん有力なものになって、将軍家から謀叛の疑いをうける以上、塩冶は安閑として都にはいられない。一刻も早くここを立ち退いて、本国の出雲へ落ちてゆくよりほかはない。それから先きはめいめいの運次第で、どう成りゆくか判らないが、ともかくもここだけは無事に落としてやりたい。こう思って、小坂部は今夜忍んで来たのである。思いもよらない報せを師直の娘から受け取って、塩冶の奥方は涙を流して喜んだ。