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いりえのほとり

入江のほとり

正宗 白鳥

線上閱讀正宗 白鳥《入江のほとり(いりえのほとり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 25,430 字 · 50 頁

青空文庫

二

二

階下では、老父母も才次夫婦も子供たちも、あちこちの部屋に早くから眠りについて、階子段の下の行灯が、深い闇の中に微かな光を放っていた。二階では良吉と勝代とが炬燵に当って、ひとしきり東京話を聞いたり訊かれたりしていたが、やがて別々の部屋に別れて寝支度をした。

「良さんには当分会えんかもしれんな。来年高等学校を卒業したら、なるべくなら東京の大学に入れるような方法を取りなさいよ」と、勝代は兄の寝床を延べながら言った。そして、自分は寒さに傷まぬようにと、懐炉を腹に当てて眠った。

弟と妹の安らかな寝息を耳に留めながら、辰男はまだ椅子に腰を掛けて、雑誌に出ている和文英訳の宿題をいろいろに工夫していた。アルハベットの読方から、満足に教師によって手ほどきされたのではないので、まったくの独稽古を積んできたのだから、発音も意味の取り方も自己流で世間には通用しそうでない。二年間東京の英語学校で正則に仕上げてきた良吉にしばしば「田舎で語学を勉強したって骨折損だ、それより早く正教員の試験を受けた方がいいぜ」と忠告されて、父や兄からもそれを最も賢い方法として説勧められたが、彼れは馬の耳に風で聞流して、否か応かの返事をさえしなかった。