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はつつぼみ
初蕾
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《初蕾(はつつぼみ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 17,525 字 · 35 頁
乳母になって来ても、それは乳ばなれまでのつきあいで、あとは一日も早く身軽になって出なおす積りだった。……けれども日がゆき月が経つにしたがって、お民の考え方はしだいに変ってきた。
「乳をやるには清らかな正しい気持で」
――そういうはま女の言葉がわかってから、次ぎ次ぎといろいろなことに眼が明いた。
――好きなうちは愛し合おう、飽きたらさっぱりと別れよう。そういう考え方が人間を侮辱するものだということも、その意味どおりにではないが理解できた。
――幾十万人という人間の中から、一人の男と一人の女が結びつく、これはそのまま厳粛で神聖なことだ。そういう言葉も、かなしく痛いほど身にしみてわかるようになった。
二人の人間がむすびつき、心をひとつに愛し合うことはあそびではない。育ってゆく小太郎を見るごとに、その気持はお民の胸を緊めつけた。はま女から躾けられたことの端はしが、更につよくその気持を支え力づけて呉れた。――早く身軽になろう、そう考えていたのが、今では、
「この家を出たらどうなるだろう」
という不安と惧れに変っている、この家を出てむかしの生活へ帰る自分を考えると、お民は肌寒くなるような厭悪を感ずるのだった。