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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《剣難女難(けんなんじょなん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 頁
初代忠明から一刀流の覇を唱えてここに三代の宗家治郎右衛門も、心から嘆声を洩らして誉めたたえたが、やおら、自身で道場へ片足を降ろそうとした。
「忠雄先生、軽はずみをなさるまいぞ」
「いや、ご迷惑ではござろうなれど、先生の如き神髄の剣法を見て、ただ、真如の月と仰ぐばかりでは物足りぬ心地が致す。自身も一手お試合を願っておこう」
「お言葉ではござるが、儂のような浪々武士とは違い、将軍家御指南の宗家、その儀は迷惑、平にご用捨にあずかりたい」
「そう仰っしゃられては二言がござらぬ。こうなると芸術精進に家格はかえってさまたげ、まだ名人の境を果てなく進まれる貴殿のご境界が羨やましい」
「思わぬ無作法を仕った。ではこのままお別れ申します」
「またご出府の節は必ず訪ねられい」
「忝のうござる、ご一同、ご免――」
門人の一人がさし出した笠を受け取って、静かに二歩、三歩道場から出ようとすると、不意に一同の耳を劈き、自斎の肺腑にも沁み入ったであろうほどな、大喝一声。
「待てッ、鐘巻自斎待てッ」
「や?」
何者の声かと一同胸をドキンと衝たれたが、誰も彼も、その見当にその人を見出した者がない。