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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《剣難女難(けんなんじょなん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 頁

青空文庫

「さ、何のご遠慮が要りましょうぞ」

「お身様たちの立ち際に、不意な用ができましたのじゃ」

御方は開けた扉口から半身見せて、

「妾にはとんと解せぬことでござりまするが、とにかくこれを読んでご覧じませ」

「はて、何事でござろうか? ……」

覚明は御方の手から渡された一通の書面を手にして、眼を落すと共に、さっと顔色が変った。

「果し状――」

「え、果し状?」

と、甲賀房、河内房の二人も側から顔をのぞかせた。

「や、春日新九郎という奴からじゃ?」

「御方、このような者はとんと拙者の記憶にござらぬが、何ぞ人違いではあるまいか」

「いや、たしかに覚明様を見届けての上と云い張って、あれ、既にあすこの庭先――広芝の真ん中に鯉口切って待っているのじゃ」

「猪口才な奴! 大先生、唯一太刀に斬っておしまいなされ。行きがけの駄賃という喩えもござる」

「おお、造作のないこと。では久し振りに、生胴で拙者の戒刀の斬れ味を、御方にお目にかけようか」

やおら、鴨居に顔のつく程な巨躯を起した覚明は、常住の護剣、金剛杖に仕込んである四尺余寸の戒刀をとって庭先へ出向いた。

「おお覚明!」

その姿を見るが早いか、南縁の沓脱石に腰かけていた五分月代優がたの浪人が、バラバラと彼の前へ駈け寄って来た。