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じゅうにしこう

十二支考(下)〔全2冊〕

南方 熊楠

線上閱讀南方 熊楠《十二支考(下)〔全2冊〕(じゅうにしこう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 251,906 字 · 495 頁

青空文庫

等に茶の徳を数えた所はあれど十の数に足らず、何か世間にない書物の名を拵えて啌でも書いてやろうかと思うたが、いずれ先方も十分支度して掛かったはずと惟えばそうもならず。親の仇同前に心掛けて配慮する内、やっと近頃西鶴の『日本永代蔵』巻四の四章に「茶の十徳も一度に皆」てふ題目を立てたを見出した。その話は敦賀港の町外れで、荷い茶屋を営業する小橋の利助といえる者、朝茶を売りて大問屋となり、出精するうち悪心起り、越中、越後に若い者を派遣し、人々の呑み棄てる茶殻を京の染屋に入れるとて買い集め、それを飲み茶に雑えて人知れず売り、大利を得たが、天の咎めを免れず、乱心して自分の奸曲を国中に触れ廻り、死後その屍を天火に焼かれ、跡は化物屋敷になったという事で、譚中に茶の十徳の事は一つも見えぬ。惟うに茶人の著る十徳という物あるに因って、茶を植うれば他の作物に十倍増して利益ある由を、この書の出来た貞享五年頃、またはその前に世に言い囃し、当時諺となって人口に膾炙したものであるまいか。故にこの茶の十徳というは鶏や猫の五徳と事異なり、十倍の利得るといったまでの事で、この徳あの徳と一々名目を列ねたものでなかろうと土宜師へ答え置いたが、どうも自分ながら胡麻の匂いがする。