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じゅうはちじのおんがくよく

十八時の音楽浴

海野 十三

線上閱讀海野 十三《十八時の音楽浴(じゅうはちじのおんがくよく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 103,941 字 · 210 頁

青空文庫

そんなものは無いでしょうがね」

「なるほど、なるほど」

余は、ついにそういわなければならない羽目になった。

客は、余が納得したのを見ると、ぜひこれを至急出願してくれといって、余の前に、出願手数料及び特許局へ納付すべき出願印紙料として、封筒に入った金を置いた。そして、余が、その金は、まあ待ってくれというのを、彼は振り切るようにして余に押しつけて、帰っていった。

さあ、金が入ったぞ。いくら置いていったかなと、余は、恥かしい次第ながら、その封筒に手をかけたとき、あわただしく入口の扉があいて、その客――田方堂十郎氏が舞い戻ってきた。

(失敗った。金を取り戻しに来たか)

と、余は、がっかりしたが、それは余の恐怖心に属するものであって、そうではなかった。

「いや、大事な忘れものをしましてなあ」

客は、そういいながら、卓上に忘れていった『動物図鑑』という分厚な本を取り上げると、また、あわてふためいて、帰っていった。

余は、胸の静まるのを待った。それから、十五分経った。これなら、もう客は帰ってこまいという自信がついたので、余はついに目的を達して、金の入った封筒の中を改めてみることが出来た。