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ちよじのおどろき

千代次の驚き

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《千代次の驚き(ちよじのおどろき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 9,413 字 · 19 頁

青空文庫

だけど、あわてたとみえて、ハンカチを落していった。もし心当りの人でもあるといけないから、ないしょで知らせるんだといって、作さんは、使いふるした皺くちゃなハンカチを差出しました。ふつうの安物のハンカチで、そんなものに見覚えのあろう筈はなく、またこの剽軽な年よりの作さんが、何を云うことやら、あたしはよくも尋ねないで、ただお礼をいって、当分ないしょにしといて頂戴とたのんで、少しばかり心附をやりました。

それが、朝のうちは何でもなかったが、おひるからさむざむと空が曇って、夕方になると、へんに気になりだし、泣きたいような心持になって、ついふらふらと、村尾さんに速達の葉書をだしてしまいました。そして安心してると、九時頃、喜久本からかかってきました。村尾さんです。

あたし、とても淋しいような、また浮々とした気持で、急いでいきますと、村尾さんはどこで飲んできたのか、もうだいぶ酔ってるじゃありませんか。それでいて、きちんと坐って、片手で火鉢のふちをさすりながら、何の話かって、いきなりそうなんでしょう。ただ、お逢いしたかったの、と笑ってみせましたが、あたしもぐいぐい飲んでやりました。