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ちよじのおどろき

千代次の驚き

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《千代次の驚き(ちよじのおどろき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 9,413 字 · 19 頁

青空文庫

何のために速達なんかで呼びだしたのか、自分でも分らなかった上に、村尾さんの痩せた蒼白い頬が、きつく引緊って、冷い眼があたしを見据えてるんです。すり寄って、甘ったれてやりましたけれど、村尾さんは姿勢をくずしません。あたしの指先をいじりながら、君とももう別れなければならないかも知れないけれど、しっかりしていっておくれ、それが僕の頼みだと、いやにまじめなんでしょう。それがどうも調子っぱずれなので、あたしは微笑んで、やたらにいやいやをしてると、ふいに、村尾さんの眼から、涙が流れだしました。ふだんのまんまの顔付で、涙がはらはらと出てくるんです。それをあたし、またかと思って、ハンカチで拭いてやりましたが、村尾さんは初めて自分の涙に気がついたように、身を引いて、袂をさぐっています。ハンカチがありません。あたしのハンカチをとって、眼をふいて、もう笑っていました。あたしは、その時はっとしました。作さんが拾ったというハンカチのことを思いだしたんです。そのつまらないきっかけから、いやにまじめなものが頭のおくに眼をさましてきて、何やかやくわしく知りたくなりました。家のこと、女中さんのこと、会社のこと、お友達のこと、そして何よりもお金のこと……。