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こくをみる

古句を観る

柴田 宵曲

線上閱讀柴田 宵曲《古句を観る(こくをみる)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 166,028 字 · 333 頁

青空文庫

飛咲の菜の花寒し麦の中    三径

「飛咲」というのは飛び離れて咲くの意であろう。青い麦の中にぽっつり離れて菜の花の咲いている趣である。万緑叢中黄一点というほどではないが、とにかく菜の花の甚だ優勢ならざることを示している。「寒し」は気候の感じでもあり、また乏しい菜の花の感じでもある。春色未だ遍からざる野の景色であろうと思う。

麦緑菜黄をはっきり描いた句に、子規居士の「菜の花の四角に咲きぬ麦の中」がある。印象明瞭の一点では、三径の句はこれに及ばぬであろう。ただ感じの複雑なところは、あるいは勝っているかも知れぬ。「飛咲」という耳慣れぬような言葉も、この場合相当な効果を収めている。

川越せばあとに啼なり雉子の声    文砌

今まで前路に当って聞えていた雉子の声が、川一つ越したら後の方になった、という意味であろう。ぼうっと霞んだような、春の野の様が眼に浮んで来る。

この川はかなりの大河らしく思われる。これを越すことによって眼界も異り、今までの雉子の声も遥かうしろの方に聞える。必ずしも同一の雉子が啼いているわけではないかも知れぬが、その声がうしろになったというので、川を越した感じはよく現れている。