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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《名人地獄(めいじんじごく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 頁

青空文庫

ひどく顔にも活気があった。

彼は家の者へこんなことをいった。

「俺はあすから旅へ出るよ。鼓賊なんか七里けっぱいだ。もっともっと大きな仕事が、この俺を待っているのだからな。」

南無幽霊頓証菩提

隅田のほとり、小梅の里。……

十一月の終り頃。弱々しい夕陽が射していた。

竹藪でしずれる雪の音、近くで聞こえる読経の声、近所に庵室でもあるらしい。

古ぼけた百姓家。間数といっても二間しかない。一つの部屋に炉が切ってあった。

雪を冠った竹の垣、みすぼらしい浪人のかり住居。……

美男の浪人が炉の前で、内職の楊枝を削っていた。あたりは寂然と静かであった。

「少し疲労れた。……眼が痛い。……」

茫然と何かを見詰め出した。

「ああきょうも日が暮れる」

また内職に取りかかった。

しずかであった。

物さびしい。

ポク、ポク、ポク、と、木魚の音。……

夕暮れがヒタヒタと逼って来た。

隣りの部屋に女房がいた。昔はさこそと思われる、今も美しい病妻であった。これも内職の仕立て物――賃仕事にいそしんでいた。

ふと女房は手を止めた。そうして凝然と見詰め出した。あてのないものを見詰めるのであった。