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とさのくにばしら

土佐の国柱

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《土佐の国柱(とさのくにばしら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 17,375 字 · 35 頁

青空文庫

一

一

「高閑さま、召されます」

「…………」

「高閑さま、高閑さま」

連日のお伽の疲れで、坐ったまま仮睡をしていた高閑斧兵衛は、二度めの呼声ではっと眼をさました。……近習番岡田伊七郎の蒼白い顔が、燭台の火影に揺れて幽鬼のように見えた。斧兵衛は慄然として思わず、

「どうあそばした、御急変か」

と息を詰めながら訊いた。

「いえ、お上がお召しなされます」

「お召し、ああそうか」

ほっと溜息をついて、斧兵衛は何度も頷いた。

土佐守山内一豊は、春からの微恙が次第に重って、初秋と共に愈重態となり、殊にこの四五日はずっと危篤の状態を続けていたので、重臣たちは殆ど城中に詰めきりであった。……中にも高閑斧兵衛は、身分こそ千二百石の侍大将に過ぎなかったが、一豊がまだ猪右衛門といった時代からの随身だし、寵愛殊に篤かったので、傷心のさまは傍の見る眼も痛ましく、もう二十余日というもの、一度も下城せず、寝食を忘れて、万一の恢復を祈っているのであった。

病間はがらんとしていた。お伽衆も居ず、侍医も女房たちも見えなかった。

「近う、ずっと近う」

「……御免」

「遠慮は無用だ、ずっと近う寄れ」

一豊は、痩せた手をあげてさし招いた。