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じょうちゅうのしも
城中の霜
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《城中の霜(じょうちゅうのしも)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 12,828 字 · 26 頁
父の長綱が藩医であったため彼も早くから文学に入ったが、忽ち俊英の才を顕わして、十五六の頃には既に福井藩中に其の名を知らぬ者がないと云われるに至った。
香苗はいまでもその頃の事を生々と思い出す。当時、左内はもう藩儒吉田東篁の門に入って、常盤町の家から毎日通学していた。いつも片方の眉をきりっとあげ、書物の包を左手に抱えながら一人で静かに歩いて来る、……どこかひ弱そうな、憂いのある白皙の顔に、乱れかかる髪の二筋三筋が、どうかすると艶めかしいほども美しい印象だった。香苗が十二(数え年の十四歳)の初夏のことである。下女を伴れて買い物に出た帰り、幸橋筋を曲ろうとすると、左内が豊島の馬場の方へ行くのをみつけた。ふと立止って見ると、同年輩の少年が五人、まるで護送するように、少し離れて前後を取囲みながら付いてゆく、その少年たちがいま評判の乱暴者で「青竜組」などと称し、城下街を荒し廻っている仲間だと気づいた香苗は、下女を先に帰して置いて彼等の後を追った。少年たちは馬場外の雑木林の中へ入ると、左内を中心に円陣を作った。左内は静かに見廻してなにか云った。香苗の隠れている場所からは、彼の言葉は聞えなかったが、直ぐ蒔田金五という少年がそれに押し被せて喚きだすのはよく聞えた。