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じょうちゅうのしも
城中の霜
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《城中の霜(じょうちゅうのしも)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 12,828 字 · 26 頁
五
当る人物になっていた。……香苗が左内に会ったのは、彼が帰郷して藩校明道館を統裁するようになってから暫く後のことであった。香苗は兄から、左内の噂はよく聞いていたので、どんなに変ったかと想像していたが、会ってみて少しも変っていないのに却って驚いた。
五
言葉つきも穏やかで、以前の通り女のように優しかったし、起居動作も極めて静かだった。――たいそう御出世でおめでとう存じます。香苗がそう云うと、彼はいつものどこか悲しげな微笑をうかべながら有難うと云い、然し本を読む暇もなくて寂しいと云った。そういう声音も、悲しげな微笑も、香苗の胸に刻みつけられていた過去の印象を、些かも崩しはしなかった。書物の包を抱えて通学した彼、金五との諍いを云いだされて赧くなった彼、否それよりもっと幼い頃、二人で無心に遊んだときの彼が、少しも変らず、そのまま彼女の前に成長した姿を見せたのである。皮膚の薄い彼の顔は、うち続く劇務に少し窶れてはいたものの、やはり血が透くように白く、柔らかい小柄な躯つきは、静かな動作と共に今でもひどく女性的である。そして同時に、その底には地熱のような、ねばり強い強靱な意力が隠れているのだ。