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よあけのつじ
夜明けの辻
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《夜明けの辻(よあけのつじ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 頁
――ええ、くそっ!
伊兵衛はやがて頭を強く振って立った。
――おれはなにをしているんだ。
琵琶の音はすなわち大弐の所在の手引きではないか、伊兵衛は茶室に沿って廻り、望翠楼の横手へと出た。絃音は明らかに閣上から聞えてくる。彼は妻戸口の外へ迫って、じっと中の気配に耳をすました。
するとその耳に、西側の裏木戸で人の呼びかわす声が聞えてきた。数は四、五人、なにか運び出そうとしているようすである。伊兵衛はとっさに裏へ廻った……木戸口のところで、津田邸の家士たちが五人、新しい幕に包んだ物を外へ担ぎ出そうとしていた。
山口と土井の死体に違いない。
伊兵衛は呼びかけようとしたが、それよりも大弐主従のほうが先だと思って、ふたたび元のところへ引返した……琵琶の音は止んでいた。そして低い談笑の声が聞え、一人はたしかに津田頼母である。
――踏み込め!
と伊兵衛がまさに妻戸へ手を掛けようとした、そのとき階上の談笑の声が、下へと降りて来るのが聞えた。
「しかしこの雪に夜道をおいでなさるには、お二人だけでは心許のうございますな。碓氷へかかる道はよほどひどうございますが」
頼母の声である。