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よあけのつじ

夜明けの辻

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《夜明けの辻(よあけのつじ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 頁

青空文庫

と云ったのは、右のように考えたからであった。むろん自分で手にかけるつもりはなかった。そういう危険な説を述べる者が、いつまで幕府の耳目を免れているはずはない、そう感じたからであった。しかしめぐりあわせはついにここへきてしまった。彼はいま大弐の心底を糺したうえ、場合によっては本当に自分の手で斬る決心をしていた。

富岡から一里半あまり、小野という部落へかかったとき、先へ行く山県主従がふと道の上に立止った……雪明りではあるが、夜のとばりが深く、おまけに粉雪がひそかに降っていたので、伊兵衛がそれに気付いたのは、両者の間隔が四、五間に迫ってからのことだった。

――あっ。

仄明りのなかに立止っている主従を見て、伊兵衛は思わず低く叫びながら一歩戻った。すると間髪を容れず、

「お逃げなさるな」

と供の盲人が声をかけた。

「鍋川の渡の向うから尾けてみえた、知っていてお待ち申したのです……ここなら邪魔もはいりますまい。いざ、まいられい」

そう云いながら合羽をはねた。

――盲無念、一刀致命の突。

孫次郎に聞いていた無気味な敵と、いま前に相対したのである。雪と闇とに遮られてよくは見えないが、小柄な痩せた体をややかがめ、見えぬ眼を仰にしながら静かに腰の小剣の柄へ手をかけた姿は、なにかしら慄然とさせる鬼気を持っていた。