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よあけのつじ
夜明けの辻
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《夜明けの辻(よあけのつじ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 42,801 字 · 86 頁
これでもう、怖れるものはありません……小母上にはお眼にかからずにまいります。どうぞお二人とも御健固でいらしってください」
「はい。来栖さまもどうぞ……鮎川の畔で、いつまでもお待ち申している者のあることを、どうぞお忘れくださいますな」
「帰って来ます」
つきあげてくるものを抑えて、道之進は噎ぶように云った……男の火のような眼を、心の内へ迎え入れながら、佐和はひそかに独り呟いた。
――これでわたしは、このかたを二度失うのだ……けれどこのかたの心だけは、こんどこそもう離れることはない。
帰って来ます。
それが最後の言葉だった。道之進は佐和の眼を瞶めたまま歩きだした。やがて足を速めたが、振返るたびに、佐和の眼と彼の眼とは熱く結びついた……やがて道は下り坂になり、道之進の姿は隠れていった。伊兵衛の去った道をまっすぐに、彼もまた東へ、東へと去って行った。東へ……東へ。
陽はいよいよ高く、松林では鳥が祝福の声をあげはじめた。頂に雪をのせた山々は、あさ緑に晴れあがった空の下にあって、もう微かに、春の萠えを告げていた。