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ゆめはよびかわす
夢は呼び交す
蒲原 有明
線上閱讀蒲原 有明《夢は呼び交す(ゆめはよびかわす)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 頁
傍目にはそうまでしなくてもよさそうに思われたに違いない。反抗が嫌なら嫌で、もっと落ち著いていればよかったろうと思われたに違いない。暴風も一過すれば必ず収まるものである。かれはそれを知らぬでもなかったが、そういう心構をするだけの多少の気力も、体力と共に失われていて、かれにはその時頼みにする何物もなかったからである。
実を言えば、鶴見は結婚後重患にかかり、その打撃から十分に癒されていなかったのである。そればかりか、病余の衰弱はかれの神経を過度に昂ぶらせた。しばしば迷眩を感ずるようになったのは、それからのことである。そういう状態が一進一退して、長いことかれを苦しめ抜いた。その間にあってかれの生活も思想もおのずから変って来た。ひとしきり憂鬱になって、気まぐれにも自殺についての考察をめぐらして見たり、またその頃はやった郊外生活を実行して、煩さい都会を避けて田園を楽しむような気振を見せたりして、そんなことを少しずつ書いたりしてもいた。
鶴見の逃避生活はそういう風にして始められた。神経を痛める細字の書は悉く取りかたづけられて、読書人の日々の課業として仏典が択ばれた。