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ゆめはよびかわす
夢は呼び交す
蒲原 有明
線上閱讀蒲原 有明《夢は呼び交す(ゆめはよびかわす)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 頁
頗る勤勉な桶職で、夜明けがたから槌の音をとんとん立てていた。その音に目を醒ますと、晴れた朝空に鳶が翼をひろげて、大きく輪を描いて、笛を吹いている。
鶴見が寓居のすぐ奥の隣家には海軍の尉官が住っていた。子供が二人ある。よしという若い女中が働いている。朝食の済むころには、かしらの四、五歳になる男の子が、玄関の格子戸に掴まって、這い上ったり下りたりするのが、まるでお猿のようである。そこへ女中が風呂敷を持ったまま出て来る。
「よしや。どこへ往くの。」坊ちゃんはいつもの問を繰り返す。
よしやは黙っている。
「よしや。よしやってば。どこへ往くのだい。」
「よしやはこれからお使にまいります。坊ちゃんも一しょにお出でになりますか。」
よしやはこういって、ずんずん格子戸を開けて出て往こうとする。
「うん。一しょに往くよ。」坊ちゃんは遑てて格子戸から降りて、下駄を穿いて、よしやのあとを追うようにして、走って出掛ける。
これが日々の行事である。
鶴見は部屋に引き籠っていて、その時分はよく『起信論』を披いて読んでいた。そして論の中でのむずかしい課題である、あの忽然念起をいつまでも考えつづける。