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あにきのようなこころもち
大川の水・追憶・本所両国 現代日本のエッセイ
線上閱讀芥川 竜之介《大川の水・追憶・本所両国 現代日本のエッセイ(あにきのようなこころもち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 22,007 字 · 56 頁
恒藤恭氏
恒藤恭は一高時代の親友なり。寄宿舎も同じ中寮の三番室に一年の間居りし事あり。当時の恒藤もまだ法科にはいらず。一部の乙組即ち英文科の生徒なりき。
恒藤は朝六時頃起き、午の休みには昼寝をし、夜は十一時の消灯前に、ちゃんと歯を磨いた後、床にはいるを常としたり。その生活の規則的なる事、エマヌエル・カントの再来か時計の振子かと思う程なりき。当時僕等のクラスには、久米正雄の如き或は菊池寛の如き、天縦の材少なからず、是等の豪傑は恒藤と違い、酒を飲んだりストオムをやったり、天馬の空を行くが如き、或は乗合自動車の町を走るが如き、放縦なる生活を喜びしものなり。故に恒藤の生活は是等の豪傑の生活に対し、規則的なるよりも一層規則的に見えしなるべし。僕は恒藤の親友なりしかど、到底彼の如くに几帳面なる事能わず、人並みに寝坊をし、人並みに夜更かしをし、凡庸に日を送るを常としたり。
恒藤は又秀才なりき。格別勉強するとも見えざれども、成績は常に首席なる上、仏蘭西語だの羅甸語だの、いろいろのものを修業しいたり。それから休日には植物園などへ、水彩画の写生に出かけしものなり。僕もその御伴を仰せつかり、彼の写生する傍らに半日本を読みし事も少からず。