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てんちょうせつのしきじょう
天長節の式場
田中 貢太郎
線上閱讀田中 貢太郎《天長節の式場(てんちょうせつのしきじょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 775 字 · 2 頁
大正十一年十月三十日、横浜市横浜尋常高等石川小学校では、例年の如く天長節の勅語奉読式を挙行した。
その翌日になって、第四年生一組の受持訓導S君は、同級生徒に向って、
「皆さん、あなた方のお友達でありました石井茂男君が、お気の毒にも、一昨日の日曜に、歿くなりました」
と云ったところで、生徒たちは承知しなかった。
「先生、石井君は、昨日式場へ来ておりました」
「嘘です、死んだなんて嘘です」
「そんな事はありません、確かに歿くなりました」
「否え、嘘です、昨日、天長節に来ておりました」
そこでS君も不思議に思って詳しく訊いてみた。
「昨日、式の始まる前に、僕と銀杏の枝が折れてる話をしました」
「運動場で草履を入れた袋を振り廻していました」
「石井君は帽子の庇が破れたのを、糸で綴って冠っていました」
と云うような事を云った。それで、
「それでは、石井さんの体に触った方はありませんか」
と云って訊いたが、それは何人も触ったと云う者はなかった。
「それでは、石井さんを見て、変に思った方はありませんか」
と云ってみたが、それも何人も変に思ったと云う者がなかった。そこでS君は、石井の死亡した事情を談したので、生徒たちは初めて石井の死を知り、天長節に見たのはその陰影であったと云う事を知った。