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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《季節のない街(きせつのないまち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 頁

青空文庫

と云って弁当の包を受取った、「また酔ってるのね、おお臭い、なにを飲んできたのさ」

「ウィスキーだよ、現場でごちになったんだ、一本幾らとかってえ本場物のウィスキーだったよ」河口は云った、「――匂いだけでしろとのおめえなんかにわかってたまるかい」

「それにしちゃあいやな匂いだね、本当は、また、鬼ころしでもやったんじゃないの」

そいつはあにいのこった、などと呟きながら、彼は靴足袋をぬいであがり、「水をくんな」と云ってどっかり坐ると、さもくたびれたように、背中で壁によりかかった。

以上が事のなりゆきであった。このほかにはなにごともおこらなかったし、どちらの夫婦のあいだにも、また、増田夫婦と河口夫婦とのつきあいにも、変ったようすはまったくなかった。

毎朝はやく、二人は水道端でおちあって、仕事にでかけた。よう、と増田が呼びかければ、よう、と河口が答えた。

「今日はぱらつきそうだな」と増田が云う、「あの雲があやしいぜ」

「そうよな」と河口が云う、「少し天気が続きすぎたからな」

そして、いっしょに歩み去るのであった。また、それから幾時間かのち、水道端で勝子と良江の顔が合うと、これまた平生と同じように話がはずんだ。