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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《季節のない街(きせつのないまち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 頁
「あらいやだ、おますさんたら、乳母車というのは言葉のあやじゃないの、意地わるねえ」と光子はいう、「本当は蝶よ花よっていうところよ」
ますさんは十九のとき長男を産んで以来、三十になるその日まで、生活の砥石ややすりで磨かれたり削られたりしたあげく、不愉快な隣人ともどうにか折り合ってゆく、知恵と忍耐力を身につけていた。
「あたしの実家はね、伊勢の古市にあるのよ、そら、芝居でする吉原の百人斬り、なんとか貢っていう侍の出てくるところ」と光子は語った、「実家は木場といって、六百年も伝わる旧家なのよ、あたし小学校四年のときにばあやの里から実家へ帰ったんだけど、その屋敷の大きいのと広いのには、子供ながらたまげてしまったわ」
そうして、そのとおり書くとすれば、どんなに寛大な読者でも怒りだすに相違ないような、とんでもない描写を始めるのだ。十分の一くらいに縮小して例をあげると、大名屋敷のような門から玄関まで二キロ以上あるとか、自家用水道の貯水池があるとか、その水を利用して自家用電力をおこす発電所があるとか、使用人たちの住宅が十幾棟あって、かれらの子弟のために幼稚園や特殊学級の小学校があるとか、屋敷の広さときたらそれこそ、――などという類の、空想的というよりまったく現実ばなれのした話を、さもまことしやかにめんめんと話し続けるのだ