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「てらだとらひこのついそう」あとがき
寺田寅彦 わが師の追想
中谷 宇吉郎
線上閱讀中谷 宇吉郎《寺田寅彦 わが師の追想(「てらだとらひこのついそう」あとがき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 31,239 字 · 65 頁
一学期も終わって、そろそろ一同の装置が揃ってくると、部屋は益々窮屈になって来た。無理遣りに小さい実験台をいくつか押し込んで、三つの実験がやっと同時にやれるようになったのであるが、椅子などは邪魔になって仕様が無い。それで皆小さい円い木の腰掛けにとりかえてしまうという騒ぎであった。
先生は毎日のように午後になるとちょっと顔を出された。そしてその小さい腰かけにちょこんと腰を下ろして、悠々と朝日をふかしながら、雑然たる三つの実験台を等分に眺めながら、御機嫌であった。
その頃はちょうど藪柑子集や冬彦集が初めて世に出た時代で、先生の頭の中に永らく蓄積されていたものが、急にはけ口を得て迸り出始めたような感じを周囲に与えておられた。研究の方も同様であって、三年間の病床及び療養の間に先生の頭の中で醗酵した色々の創意が、生のままの姿でいくらでも、後から後からとわれわれの前に並べられた。それらの創意は、皆その後数年の間に育て上げられて、後年の先生の華々しい研究生活の一翼をそれぞれなすようになった。一年間の研究実験を終え、その後引き続いて理化学研究所で三年間先生の助手を務め上げていた間に、私はこの偉大なる魂の生長をすぐ傍で見つめていることが出来たはずであった。