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あひるとさる

寺田寅彦随筆集 第五巻

寺田 寅彦

線上閱讀寺田 寅彦《寺田寅彦随筆集 第五巻(あひるとさる)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 194,515 字 · 389 頁

青空文庫

この「不可視人間」の概念にはかなりに根本的な科学的不可能性が包まれているようである。一見どんなに荒唐無稽に見える空想でも現在の可能性の延長として見たときに、それが不可能だという証明はできないという種類のものもずいぶんある。たとえば人間の寿命を百歳以上に延長するとか、男女の性を取り換えるとかいう種類の空想はそうにわかに否定することのできない種類に属する。しかし「不可視人間」の空想はこれとはよほど趣を異にしている。

いったい「物体」が存在するということは、換言すれば、その物体と周囲との境界面が存在するということである。物体が認識され、物と物、物とエネルギーとの間に起こる現象が知覚されるのはやはりこの境界面があるからである。この事は、物理学で「場」の方程式だけでは具体的の現象が規定されず、そのほかに「境界条件」を必要とする、という事に相当する。

それほど一般的な議論をするまでもなく、あらゆる生物の生活現象は、生物を構成するコロイドの粒子や薄膜の境界において行なわれる物理的化学的現象ときわめて密接な関係があるということは現在では周知の事実である。言い換えれば、異質異相の境界面の存在しない所には生命は存在し得られないのである。