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あひるとさる
寺田寅彦随筆集 第五巻
寺田 寅彦
線上閱讀寺田 寅彦《寺田寅彦随筆集 第五巻(あひるとさる)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 194,515 字 · 389 頁
と四拍子の簡単な旋律を少しぼやけた中空なバリトンで歌い歩くのがいた。その大きなまっかな張り抜きの唐辛子の横腹のふたをあけると中に七味唐辛子の倉庫があったのである。この異風な物売りはあるいは明治以後の産物であったかもしれない。
「お銀が作った大ももは」と呼び歩く楊梅売りのことは、前に書いたことがあるから略する。
しじみ売りは「スズメガイホー」と呼び歩いた。牡蠣売りは昔は「カキャゴー」と言ったものらしい、というのは自分らの子供時代におとなからしばしば聞かされたたぬきの怪談のさまざまの中に、この動物が夜中に牡蠣売りに化けて「カキャゴーカキャゴー」と呼び歩くというのがあって、われわれはよく夜道を歩きながらそのたぬきのまねをするつもりで「カキャゴー」「カキャゴー」と叫び歩き、そうして自分で自分の声におびえることによって不思議な神秘の感覚を味わい享楽したものであった。
北の山奥から時々姿を現わして奇妙な物を売りありく老人がいた。少しびっこで恐ろしく背の高いやせこけた老翁であったが、破れ手ぬぐいで頬かぶりをした下からうすぎたない白髪がはみ出していたようである。着物は完全な襤褸でそれに荒繩の帯を締めていたような気がする。