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ならしげざっぴつ
小出楢重随筆集
小出 楢重
線上閱讀小出 楢重《小出楢重随筆集(ならしげざっぴつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 334,351 字 · 657 頁
男鹿がその威力を現すのは何といっても秋の交尾期だ。夜も昼も森の中で彼は叫び通して異性を呼んでいる。それは相当悲しむべき声である。そのもっとも大にして年経たものはすさまじき酋長の面構えで、多くの女鹿をしたがえて威張っている。
彼はこの季節になると軒に干してある手拭い、風呂敷、ハンカチーフの別なく何によらず時にはバケツでさえも彼の角をもってさらって行く。そしてどうするのかといえば、それを彼の巨大な角の先へ巻きつけて、女鹿の前をその勇壮な姿において行進して見るのである。それは新調のネクタイを彼女に見てもらい、学生がわざわざその帽子を破り、画学生がブルーズを汚すのとほぼ同じものらしいのである。なお彼は水溜りの中へもぐり込みその泥を全身に塗りつけて、とても手荒い相貌を製造する。しかる後、彼は叫ぶのだ。
彼が異性を目指しての突進は砲弾を発射した如くである。二人の娘がある日小川の流れに添うて漫歩していた時、一匹の男鹿が女鹿を見て走り出した。不幸な娘達はちょうどその弾丸の通る道筋に当たっていたのだ。たちまち二人とも小川の中へ突き落されてしまったのを私は見た。娘達は同性心中となって現れた。