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しょうじょがこなかったら
少女がこなかったら
小川 未明
線上閱讀小川 未明《少女がこなかったら(しょうじょがこなかったら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N3,點詞查義。
N3 · 進階 · 新字新假名 · 2,519 字 · 6 頁
寒い、暗い、晩であります。風の音が、さびしく聞かれました。ちょうど、真夜中ごろでありましょう。
コロ、コロ、といって、あちらの往来をすぎる車の音が、太郎のまくらもとに聞こえてきました。もう、だいぶねあきていましたので、彼はふと目をあけて、その車の音に、耳をすましたのでした。
「いま時分、あんな車を引いてゆくのは、どんな人間だろう?」
こう、彼は考えました。すると、それは怖ろしい人のようにも思われました。というのは、その音は、いま、はじめて聞く車の音ではなかったのです。
まだ、自分が小さかったとき、夜中に起きてなにかむずかると、やさしい母は、
「あの音は、なんだろう……。だまってだまって、ああ、怖い、ああ、怖い。」といって、しっかりと自分を抱きすくめられたのを、太郎は、昨日のことのように、忘れなかったのであります。
それから後、彼は、たびたび真夜中ごろに、この車の音を床の中で聞いたことがありましたが、いつも、それは、人間とは思われないような、怖ろしい姿をしたものが、まったく人通りの絶えた往来の上を、車を引いてゆく有り様を目に描いたのでした。
この晩も、彼は、やはりそんなような空想にふけったのです。