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あきかぜとはは

尾崎士郎短篇集

尾崎 士郎

線上閱讀尾崎 士郎《尾崎士郎短篇集(あきかぜとはは)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 108,032 字 · 216 頁

青空文庫

その後、十年ちかく、私は書いたものを読んでいるだけで、中野正剛その人とは直接会ったことがなかった。慷慨激越の革命的リズムにあふれた文章に親しんでいるうちに、いつのまにか私の頭の中には、まったく別の中野正剛のイメージがつくりあげられてしまったのである。

紳士は、私の前に立つと、物やわらかな態度で、

「中野です」

といった。一瞬間、私は出鼻をくじかれたような思いで、慌てて手帖の中にはさんだ名刺をつかみ出そうとしていると、

「失礼ですが、何か社のものが不都合なことでもいたしましたでしょうか?」

底にトゲをふくんだ声ではない。淡々とした調子の中に、編集員の不都合も、それに対して怒っている私の気持も、みんな、ひととおり呑みこんだ上で、一切の責任は自分で負おうという心構えである。

「いや、どうも」

といったきりで私はまいってしまった。何を、どういう順序で、どういうふうに話したのか、自分でもハッキリおぼえていない。四十年前の話だから、こまかい記憶は、うすれて見分けがつかなくなっているが、何の誇張もなく、物やわらかな中野正剛の顔の印象だけは私の頭に灼きついている。

そのつぎに会ったのは、政治生活において、もっともはなやかな時代で、昭和三年、最初の普通選挙に最高点で当選した彼は、このとき、すでに安達謙蔵の勧告によって民政党(